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平成14年度 指導員養成講習会理論1
平成13年11月3日(日)神奈川県民センター

◆佐藤博一専門委員  

1.スキーの特性と指導
◆スキー技術の特性と指導
運動の技術は、次のような特徴を持っています。
@ 運動の課題(目的)を達成するのにもっとも適したものである
A 効率的に成し遂げることの出来るものである
B 誰にでも伝達できる普遍的な方法である

生涯スポーツとしてのスキーは、変化する状況、条件の運動環境でバランスを確保し、安全に、効率よく滑ることの出来る動きや、心身の良好な状態によって表現される「フォーム」を課題とする、質の良さを求めるスポーツといえます。

運動の質は、空間的、時間的、力動的の3つの要素でとらえることができ、質的に高い状態とは、次のような状態をいいます。
・ 身体各部やスキーの位置関係がバランスを保ち、運動を行うのにもっとも良い状態にあるフォームを正確に実現できること(空間的)
・ 動きの移り変わりがタイミング良く行われること(時間的)
・ 力の配分が適切で、強弱のリズムが滑らかであること(力動的)
すなわち、動きが「正確に」「タイミングよく」「滑らかに」表現できる状態です。

運動の質的構造とその内容
@ 運動リズム
A 運動の流れ
B 運動の正確さ
C 運動のはずみ
D 運動の伝導
E 運動の先取り u 生涯スポーツとしての特性と指導
スキースポーツの特性は、次にあげるとおりです。
@ 自然との接触によって、新たな発見や感動が得られる。
A スピード感あふれる運動は、スリルに富み、爽快さ、快適さは他の運動の比ではない。
B 運動スペースの選択、運動の方向、運動の組み立てが自由であり、自己実現が可能で創造性豊かなスポーツである。
C 外力の効率のよい使い方を学ぶことで長時間楽しめる。
D 技術程度や体力に応じて楽しめる。
E 体力、年齢、性、階層などに関係なくグループ活動ができ、人間関係を改善したり交流を深めることができる。
F 比較的短時間の学習で上達が認められので、達成の喜びや満足感が大きい。次への具体的な努力目標(挑戦)が立てやすい。
G シーズンとシーズンオフが明確で、シーズンオフにおける期待感も大きく、興味の持続性がある。

「生涯スポーツ」に着目した学習指導は、スキーを学ぶ者の自発的、主体的な運動欲求が満たされるものでなければなりません。

学習活動の方向は、次のようになります。
@ 学習活動が学ぶ者の自発的欲求に即したものであり、学ぶ者自身の目的を達成するための活動であること。
A 学習活動は、学ぶ者の体力、技能にあった活動水準、挑戦水準であること。
B 課題解決のための明確なねらいと、その達成のための正しい方法や手段(技術)を学ぶ者自身がとらえていること。


2.スキー指導の基礎と原則
◆自発的な学習意欲の喚起

自発的な学習を進めるには、本人の「やる気」がなければなりません。やる気は、次きのような条件を満たすことで強められ、スキー学習が楽しさや、充実感のあるものとなります。
@ 強い目的意識を持つ。
A 学習の課題を認識する。
B 個人の技能レベルに応じて、成功による喜びが体得できる学習内容である。
C 仲間と協力して活動できる。また、指導者の適切な助言が得られる。
D 学習活動による進歩が実感でき、学習活動の結果が自己評価できる。

「やる気」を意図的に引き起こすことを「動機づけ」といいます。動機づけの主な方法は次の通りです。
(1)学習目標や学習内容をよく理解させる
(2)技能に応じた課題を設定する
(3)仲間との競い合いを演出する
(4)よい学習環境を選択する
(5)学習意欲の継続的な方向づけと強化

◆運動習得のメカニズム
◇フィードバックとフィードフォワード
目的とする運動のイメージと結果として現れた運動とを比較し、その差を少なくする修正の過程と見ることができます。誤差を知覚し認め、意識的に修正の働きをすることを"フィードバック"といいます。

運動の直前に結果を予想して、事前に修正することを"フィードフォワード"といいます。
スキーの運動では、斜度、地形、雪質、気象条件などさまざまな状況の変化を見越した構えや、動作の修正が大切です。スキー運動は、まさにフィードフォワードの運動ともいえます。

◇技能の進歩とつまずき
プラトー(高原現象)の原因と脱出
原因)
@ 学習に対する集中力や興味が減退したとき
A 自分の能力では解決困難な課題にぶつかったとき
B 次の課題に進むにの障害となる悪い癖が身についているとき
C 用具が自分に合っていないとき
D 課題を果たすための体力が不足しているとき
脱出)
●新しい課題を正しく理解し、全体のイメージを把握する。
●学習の方法を検討し、効率的、効果的な方法を工夫し実施する。
●指導者に助言を求め、指導を受ける。

スランプの原因と脱出
原因)
@ 高度な技術の習得段階――学習によって無意識的にできる動作(自動化された動き)に、さらに高度な技術を習得しようとして、意識的な動作が加わった場合、動作はぎこちなくなり、リズミカルな動きが阻まれる。
A 疲労による場合――過度の練習などによって、身体的、精神的な過労になっている。
B 心理的原因による場合――自分の力に対する失望、不安感などによる自信喪失、人間関係などで悩みがある。
C 学習活動、方法のマンネリ化――緊張感や刺激に欠け、学習に集中できない。
D 病気、障害――気づかない病気や障害がある。
脱出)
適度な気分転換や積極的休養、練習方法を変更するなど、あせらずゆっくりとスランプから抜け出す工夫を求めたいものです。

◇学習効果の持続
できるようになった段階(学習成立の基準)から、さらに続ける練習を"過剰学習"といいます。この過剰学習によって身についた技術は、中断しても失われることがないのです。
生涯スポーツとしてスキーを位置づけるには、ライフステージのどこかで中断を余儀なくされても、やがてスキーができる環境になったときには、すぐ取り戻すことができることが大事になってきます。できるときに、集中して過剰学習を行っておくことが望ましいのです。

◇練習の方法
1. 全習法と分週法
課題となる一連の運動を全体としてまとめて練習する「全習法」と、一連の動きの部分を取り出して、個々に練習する「分習法」があります。
スキー学習は、これらの技術を全体として総合的に練習することで、技能を高めていくのがもっとも効率的で効果的といわれています。
解決しなければならない部分的な技術課題が生じた場合には、分習法によって、その部分のより能率的な強化を図ります。

2. 集中法と分散法
集中法は、休憩をほとんど入れないで連続的に練習する方法で、分散法は、反復する練習の間に休憩を適当に入れる方法です。
運動量の多いスキーでは、一般的に分散法で学習が進められることが多く、また効果的であるとされています。


3.スキー指導と学習
◆ 主体的学習の展開

主体的学習とは、学ぶ側が主人公になる学習活動のことです。
指導とは、スキーヤーがそれぞれ持っている可能性を見出し、それを伸ばしてあげることです。
主体的な学習の基本的なねらいは、次のとおりです。
@ 一人ひとりが学習の目当てを持つ。
A 自ら工夫し、全力で努力していく。
B みんなで考え、助け合い、練りあい、高めあう。
C 個々の学習課題や、核になる共通課題を解決しながら、技を磨く。
これらの、「自主」「協力」「解決」という三つが有機的に絡みあって、学習に適した場が構成されます。その場が学習者を育てるのです。
主体的学習の大きなねらいは、「スキーをする楽しさ、喜び」を体験したスキーヤーを育てることです。

◆スキー学習の環境整備
今日では、ワンパターンの方法や内容で多くのスキーヤーを導くことはできなくなってきています。スキーヤー個々のニーズに合わせた指導、その時々、場面場面の状況にあったもっとも効率の良い方法を多様に持つことが、今、指導に求められてきているのです。

◆指導の形態
指導の効果を高めるには、指導の形態を整えることも考えなければなりません。
効率的な指導のためには学習集団を組織化する必要があります。
組織化の際、まず考慮しなければならないのは、指導者と学習者、そして、学習者同士で、快適な人間関係を作ることです。
(1)グループを構成する人数
(2)技能別によるグループ編成
(3)指向によるグループ指導編成
(4)グループ指導と個別指導


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