|
|
平成16年度 秋季拡大教育本部会 |
|
横浜Fマリノスコーチ 樋口靖洋さん |
熱心に聞き入る専門委員のみなさん |
■横浜Fマリノスコーチ 樋口靖洋氏 講演録<プロフィール> ■子供のサッカーが縁で講演依頼私とSAK清水さんとの出会いは、15〜6年前に息子さんがマリノスのサッカースクールに入られ、担当コーチが私でそれ以来の長い付き合いをしています。今回は講演の機会を頂き、色々なテーマをもらいましたが、競技種目が違います。私はサッカーで皆さんはスキーですし、サッカーはチームスポーツでありますが、皆さんのスキーは個人スポーツでです。大きな違いがある中でどのような話が出来るのかを考えました。14年間子供たちを教えてきて、現在はマリノスの岡田監督の元でヘッドコーチとして指導しています。20年の指導歴の中で感じてきたこと・選手や出会った指導者から学んだ事を1回整理して皆さんに話してみようと思いました。当然世界が違うので指導方法も考え方も違います。原則的には共通する事が多いのではと思い、テーマを『育成期の指導法』に絞りました。 ■指導を考える指導とは何か?コーチングとは成長を促す仕事と私は思っています。特に育成期のコーチングは選手のベースを造り、どんな指導を受けたかによってその選手がどのように変わって行くか、ベースになる大事な時期と思います。 今回は指導者の原則として、@自分の考え方をお話する。A自分が出会った選手から学んだこと。B自分が今コーチとして監督から学んだことの3つの柱でお話して行きます。 ◆指導者の役割1つ目は、最初に出会うコーチで、これは大変重要な役割を持っていると思います。そのスポーツを好きになるか、ならないかの最初の一歩であり、選手が扉を開けた時の最初のコーチが良い印象を与えるか、その子がサッカーを続けるかどうかであり、責任がある重要なことであります。実際、私は小学6年からサッカーを始めてここまで続けてこれたのは一番最初に出会った方が人間としてユニークな方でサッカーを自由にやらしてくれました。そこでサッカーが好きになり、ここまで仕事をやってきた要因と思います。 2つ目は、心技体の基礎づくりとは、ベース・土台を造ること。育成期の指導者が心技体の基礎づくりをしなければいけない。これは指導者の役割と思います。 3つ目は役割としてやってはいけないこと、それは傷害を作ってしまうこと。いわゆるスポーツ傷害です。いくら好きでも身体を壊してその競技が続けられないようなトレーニングをしてしまう事の傷害予防の3つです。 日本のサッカー界で言えば、子供のサッカーが普及しています。2002年のワールドカップでファンが定着したようである。少年野球よりサッカーしている子供が多い。その子供達が10年後にサッカーを好きになっているか、サッカーの選手として活躍しているか、これが少年指導者の役割と思います。少年サッカーの育成期の指導者が日本のサッカーを支えていると言う自負を持つ事。責任とプライドを持つ事。2002年ワールドカップでベスト16までいった。これは驚異的なことで、「10年前にあの少年達を育てた少年たちの指導者・中学の指導者その人たちの支えがあって彼らの成功があった。だから彼らに携わった指導者には誇りを持ってほしい。」と話をしています。4年に1回ワールドカップがあり、出場する選手が1人でも多く輩出され、日本が強くなる。それだけのプライドと誇りを持って指導にあたってくださいと話しています。 ■指導の目的 …… 完成期(20才前後)にいかに成長するかいかに子供達が成長するかを考えて指導にあたることです。つまり今は終点にあるのではなく、過程にあるのです。何が大切か何をしなければ行けないか。将来を見据えた視野を持って常に指導に携わること。但し、プロになることだけが成功とは思いません。プロになる選手は1000人に1人と思います。プロになったとしても日本代表になるのはほんとにわずかだと思いますで。プロになれないのは失敗かと!。大事なのはサッカーファンを育てること。サッカーに携わる人間を育てるのがサッカーの目的と考えます。選手は育っていくものであり、環境づくりを指導者はやっていくべきであります。私事ではありますが、清水さんの息子さんは25才でその年代の方を良く指導しましたが、成人した彼らからよく電話がかかってきます。『今日グラウンド取れたからサッカーやろうよ!』と誘われます。何が嬉しいか、彼らが今でもサッカーを続けていること。息子さんはプロにはなっていませんが、サッカーを続けていること。指導者としての目的をこの子達には達成することが出来たのかなあ!と最近良く感じる機会をもらっています。改めて、プロになるのが成功ではなく、彼らがサッカーを続けていることが自分の喜びでもあります。 ■指導者の資質・スタンス1つ目は『オープンマインド』サッカー界で言われる言葉に“学ぶことを辞めたら教えることを辞めなければならない”つまり学ぶ姿勢・自分が変ろうとする姿勢・吸収しようという姿勢、これは絶対になくしてはいけません。フランス代表監督のロジェ・ルメール氏が日本に来て我々指導者に対し講習会の冒頭に話した。「指導者も常に学ばなければいけないのだと。そうしないと選手に教えることは出来ないのだ。」と強く言っていたので大事にしています。 2つ目は『グッドスタンダード』良い見本です。当たり前のことですが、子供達は指導者を見ます。指導者が汚い言葉を使えば子供達も汚い言葉を使う。間違ったことをすれば真似をします。常に良い指導者であろうとする姿勢を持つことを大事にします。世の中にパーフェクトな指導者はいない。だから指導者も成長していかなければいけないのだと肝に銘じています。 3つ目は『個別性と多様性』です。例えば、私が今30人の子供を教えているとします。私にすれば1:30ですが、生徒にすれば1:1ということを忘れずに話すことにしています。言葉のニュアンスで伝え方でどう反応するかを考えて対応することが大事であります。子供は常にコーチを見ています。常に多くの子供に目を向けて、その子に合った話し方で対応していかなければならないと思います。 次に多様性は、柔軟な対応をすることではなく、1日2Hサッカーの練習に来て、週2回とすると4H/週しか接する機会がない訳で、4Hでその子の何が見れるか。それを見ただけで“この子はこうなのだ”と決めつけて指導して失敗することがあります。ここはどうなのかと探ろうとする姿勢を持った上で子供と対話することが大事になってきます。サッカーを始めた子供達は多感で、コーチは僕を見てくれない。気が付いているようで気付いていないことがあり、何度も失敗しました。 4つ目は『北風と太陽』です。イソップ童話を読んで面白いと思い指導に当てはめています。旅人がコートを着て歩いている。そのコートを脱がそうと勝負をする。北風は ビュービューと吹き付け、コートを飛ばそうとする。旅人はコートを飛ばされまいと衿を持つ。しかし風の力で飛んでしまう。次に太陽は、ぽかぽかと照らす。そうすると旅人は自分からコートを脱ぐのです。指導で考えれば、北風は強制ですね。やらせる訳で結果として一時的なものです。太陽は自分の意志を促す。これは継続します。私は思うのですが、指導者は太陽であるべきと、自分の意志で何かをやるように仕向けることが、継続性をもっていくのです。この4つを大事にしています。 ■子供を知る・・『心』2つの観点があります。1つは『心』、そして『身体』です。まず心では、子供は遊びが大好き、楽しいことが好きです。楽しいことには集中力を発揮する。サッカー練習に来て、砂いじりをするのは、サッカーがつまらないと思う。はっきりしているのは、子供は楽しいことが好きなのである。サッカーの本質は自由で主体的な表現つまり、今シュートを打つか・ドリブルするか・パスするかは、全部自分の判断で行なう。その瞬間・瞬間を自分の判断で行なう。これがサッカーの魅力だと思います。サッカーは自由で主体的な活動即ち遊びなのだと捉えています。 実際に子供の楽しさは何か?要素をまとめてみました。
|
|
|
熱心に聞き入る専門委員のみなさん |
■子供をに知る ・・ 『身体』『子供は小さな大人ではなく、発育・発達の過程にある。』これは絶対に忘れてはいけない言葉であります。先程の傷害予防の観点から外して指導してしまうと大きな問題になる。実際に大切なのは“タイムリーな刺激”で、やらなければいけないこと、やってはいけないことを整理して指導することです。発育の途上にある子供達は同じ10才でも身長も発育度合いも違うので個別性をもって対応しなくてはいけません。子供を知る上で、我々のクラブでは、年に5〜6回身長・体重を測定して、この子は成長期にあるのかを見ながら個別性を持って対応しています。ここに運動神経と筋肉の成長度合いのグラフがあります。運動神経は8〜13才迄で80〜90%発達しますが、筋肉は徐々に成長して成長期を向かえる。これを先程の“タイムリーな刺激”で運動神経が発達している時に必要な神経を与えることが大切です。自転車を例に上げて、この時期に乗った後10年ぐらい乗らないでいても乗れます。しかしこの時期に乗れなかった人が20才で乗るのは難しい。これはやらなければいけないこと、やってはいけないこと。今必要なことをやらなければいけない。反対にこの時期に体力トレーニングをやる意味はありません。成長している時にやっても傷害を起すだけです。その意味で、タイムリーな刺激とは、やらなければいけないこと、やってはいけないことをきちんと区別しましょう。 次にサッカー界でゴールデンエイジと言われることについて話します。運動神経の発達がめざましく、動作を習得する時期にある。つまりこの時期にやることをやっておかないと後の成長に影響するのです。特に育成期のサッカー指導者に対して時間を掛けて説明しています。それは8才までにサッカーが嫌いなら大事な時期をサッカー好きで過ごせないのです。幼稚園とかでサッカー好きな状態でゴールデンエイジに送りこみましょうということを、キッズプログラムで6〜7才を対象にした指導者に教えていますが、好きな状態にさせてゴールデンエイジへ、です。子供の身体を知る上では一般的な考え方であると理解してください。 ■何を伝えるか! … 『ベーシックな基礎』サッカーには様々なスタイルがあります。例えば南米・欧州では違います。暑い所のサッカーはスピードを要求するともたない。逆に芝のグラウンドが柔らかい、雨の多い英国ではボールを蹴った方が良い。気候・人種でもサッカースタイルは変ってくる。しかしどんなサッカーにも通じるベーシックな基礎があります。その1つが“コーディネーション能力”である。バランス感覚、リズム感、通間認知つまり野球のフライですね。飛んできたボールをどこでキャッチできるか空間の感覚ですね。協調性つまり強いボールを出すか弱いボールを出すかの力の加減です。これらを総称してコーディネーション能力といいます。これを持っていないと技術として身に付かない。判断する能力とかは、サッカーの世界で特にコーディネーション能力を高めていくと判断することを瞬時でやることを一番に伝えたいのです。 年1回海外へ研修に行きますが、旧ユーゴスラビアでのトレーニングでは、サッカークラブの1年間のスケジュールにスキーも・水泳・バスケットボールもある。勿論サッカーがメインであるがあらゆるスポーツを体験している。1月は全員でスキーに行く。2月はスケートにいくことであらゆるスポーツを体験することはコーディネーション能力を高めるのだと話していた。日本のスポーツは単一スポーツしかやらない。サッカーをしている子供に野球をやらしても、バットの持ち方も解からない。寂しい話であるが、あらゆるスポーツを体験させることがコーディネーション能力では大事です。 ◆どのように伝えるか指導者の一番のテーマですね。いくら良い知識を持っていても子供に伝わるかが大切である。どのように伝えるか1つ目は『動機付け』ですね。良い動機付けができれば物事は伝わり易いものです。具体的には、子供の楽しさに刺激を与え、それは直感的に認知されるとか行動する欲求とかですが、これは子供の楽しさに対する欲求に刺激を与え楽しさを実感させる。“達成感”とは何か。何かができるようになったこと。またやりたいと思う。それに適切な目標を設定してあげること。出来ないことを目標としても無理なので、目標が高すぎると意欲をなくしてしまう。だからその子に合った適切な目標が必要であり、子供のレベルを知った上で設定してあげれば動機付けになります。 次に“認知”ですが、自分が褒められると嬉しい。今のあなたのプレイは良かったよ!と認めてあげること。認められたことは忘れない。もう一度やろうとする。大事な要素です。 もう1つは“環境”です。簡単に言えば、凸凹の土のグラウンドでサッカーをやりましょうと言っても中々やらない。芝のグラウンドに皆集まれと呼ぶと、自然にサッカーを始めるのです。例えば、ゴールにネットを張ってないと、シュートしても突き抜けていくので面白くない。普通はボールを蹴ってネットに落ちる感覚が楽しい。ドイツでの話で、ゴールの横に防球ネットを張り練習すると、防球ネットの有無でシュートの確立が全然ちがう。ネットが無いときは自分でボールを拾いに行くので、外すのが嫌で真ん中に蹴る。防球ネットを横に置くと、外しても拾いにいかなくてもよいとどんどん隅を狙う。ちょっとした環境の工夫で子供の意欲が違う。動機付けでは、達成感・認知・環境を大事にします。 次に『ゆとりを持つ』ですが、ゆとりとは長い時間ではなく、子供に与えすぎず、子供の発想を引き出そうとする。子供に考える時間を与えること。こうしてみたら、こういうやり方もあるのではと投げかけて考える時間を与えてあげる。指導とは、アドバイスであって命令になってはいけない。判断して実行するのは選手です。 子供は失敗することでどんどん大きくなる。わざと失敗させれば良い。サッカーでは飛び級制度があり、小学5年で上手いなら、6年のチームあるいは中学のチームに入れる。そうすると5年で出来たことが上のチームでは出来ない。何で出来ないのかと考える。そのようなゆとりを持つ。サッカーで勝とうとするとミスの少ないチームが勝つのは当たり前で、ミスをさせないために最初から答えを与えて指導すると、判断が出来なくなります。我々指導者は勝負にこだわるのではなく、ゆとりを持って子供に考える間を持つことが大事でこの2点を伝える作業の中で大切にしています。 ■トレーニングの考え方スキーとでは考え方が違うと思いますが、テーマと目標をしっかり設定すること。 状況・レベルを把握して適切な目標を設定して、刺激を与える。これが出来ないとどの様な目標を与えても出来ないと思われる。
それで一人の選手は成長していきます。その子供の6〜7年を考えると約1400回もトレーニングをします。コーチは何で問題あるの?彼には1400回も練習する時間があるのだといいます。つまり長期的にものを見ると、出来ない事も時間をかければ出来るようになっていきます。目先のことに執着するのではなく、長期的に階段をおって出来るだろうと話をされたのです。勿論一人の指導者ではなく、次の指導者に引き継いで行なっていくのであります。問題は時間をかけて解決していくのだと言われました。これは凄く大事な考え方だよと。ここまでが私なりのトレーニングの考え方です。 |
|
|
熱心に聞き入る専門委員のみなさん |
◆教えてきた子供達から学んだこと次に教えてきた子供達から学んだことをお話します。
◆監督から学んだことトップチームのコーチをしているが、今までに監督と出会って学んだことをお話します。
以上 私が今まで経験してきたこと、選手とそして監督に出会って学んだことを話したが、スポーツ競技が違うので、どこまで伝わっているか解からないが、皆さんの参考になれば幸いです。 ありがとうございました。 |
|
|
講演風景 |
このあと、ランドマーク5階『ロイヤルフードコート』で懇親会が行なわれた。参加者はちょっと少なめであるが、樋口氏に熱心に質問していました。 指導者として、子供達に教えることに関しては合い通じる個所が沢山あり、ためになるお話が聞けたと思います。 (総務本部理事 徳本進) |
|
< 前へ | |