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スノーパラダイス in北海道 キロロ
大井智子 広報委員レポート

バスチーフの長久保専門委員
キロロ行きのバス

 突然,耳元の電話が鳴った。受話器から,「6時になったから,『樹林』に朝ごはん食べに行きましょう」と,広報委員のあいぼうの声がした。
「ええっ」とあせった。朝食前に,洗面,化粧,上半身の着替えを済ませるべく,ベッドの時計は「5:30」にセットしたはずだ。なぜ鳴らなかったのか,と時計タイマーを見ると,そこには「PM5:30」とのタイマーセット表示が残されていた……。

◆「33人でバスに乗り込む」
 12月12日(木)は,希望者ごとに「ニセコ」「ルスツ」「キロロ」「朝里」の各スキー場行きのバスが出る。昨晩,本部室の「2120」号室で行われた23:30のミーティングでは,「ニセコ」21人,「ルスツ」70人,「キロロ」34人,「朝里」91人の参加希望者にあわせて,それぞれ専門委員が割り振られた。われわれ2人の広報委員も,それぞれ「キロロ」と「ルスツ」を取材することになった。

◆わたしは「キロロ」へ。
 バスの出発は7時45分。朝食と着替えをすませ,出発の15分前にバス乗り場のある1階のサブエントランスに下りていく。キロロ担当役員は,井駒利一監事,長久保巌理事,岡崎勇専門委員とわたしの4人。広報委員として,これだけ大規模な行事に望むのは初めてで,どきどきする。
徐々にバスにみんなが乗り込んできた。長久保さんたちは,スキー板をせっせとバスのトランクに積み込んでいる。井駒さんは「いち,にい,さん……」と,バスの参加人数を数え始めた。「なにをすればいいのだろう」と戸惑っていたわたしが,そのあとを受けて勘定した(最初は数を間違えました。訂正の連絡させてしまったバス長の長久保さんすみません。参加者のみなさん,何べんもバスの中をうろうろしてごめんなさい)。
 全部で33人。役員を除くと29人だ。きのうのミーティングで聞いた数より減っている。ほかのスキー場に鞍替えしたのか。「キロロはあまり人気ないのかな」とつぶやくと,役員のだれかが「中斜面が多いから,バンバン滑りたい人はほかへ行くのかもしれないね」と答えてくれた。

◆スキー場に行くことは会社にないしょ‥
 けさ朝ごはんを食べていた6時半ごろ,レストラン「樹林」から外を見たら雪がたくさん降っていた。バスが出発した時もやはり雪。しばらくして,「札樽自動車道」を走り出すと,進行方向左手のうしろの方から日が差してきた。その上だけ,ぽっかり青空が広がっている。これからわれわれが進むのとは逆の方角だ。「市内の方が,天気いいかもしれないなあ」とうしろの座席の人がつぶやく。
車内では,携帯電話を片手に,どうやら取引先と「仕事の話」をしている人の声だけが響く。今日は平日だ。スキー場に行くことは会社にないしょで,このツアーに参加している社会人も多いことだろう。

バスから降りて‥
インフォメーションセンター

◆9時ごろバスはキロロに到着した
 8時30分に「朝里I.C.」を下りる。出発した時の不安をよそに,天気はとってもいい。車内を見ると座席に「沈没」して熟睡している人もいる。「小樽環状線」と表示があるその道に,前を行く車は1台もない。さらにバスは環状線を外れ,木立の中を走り始めた。相変わらず,すれ違う車はない。だだっぴろい雪の平原に,ショベルカー一台と,仮設トイレが20個ほど見えた。近くに工事現場があり,作業員の人がドリルで地面を掘っている。地面の下の土は寒さでかなり硬いだろう。
バスは山道を登っていく。てかてかに光る車道の雪が朝の光に輝いている。それからぱっと視界が開けた。左手の前方遠くに見えるゲレンデは,どうやら朝里川温泉スキー場らしい。ほどなく「おはようございます」とのアナウンスがあり,9時ごろバスはキロロ駐車場に到着した。

◆監事の井駒さんはキロロを熟知
 バスを降りるとインフォメーションセンターのある「マウンテンセンター」に集合し,リフト割引券の引換券が配られた。長久保さんの指揮のもと,全員で「キロロゴンドラ」に乗り込む。監事の井駒さんはキロロを熟知しているようだ。朝里川温泉スキー場との「意外に近い」位置関係などを,ゴンドラの中で説明してくれた。キロロスキー場は,向かって右手が「朝里エリア」(標高1180m),左手が「長峰エリア」(標高1090m)と名づけられている。
その話をふんふんと聞きながら,突然「あっ」と叫んでしまった。

ありがとう天使さんとそのお友達
監事の井駒さん

◆「しまった。ゴーグル,バスの中に忘れた……」。
 ぼう然とするわたしに,前に座っていた3人グループの女性のひとりがやさしく言った。「わたしいつもゴーグルで滑りますから,このサングラス,お貸ししますよ」と,サングラスを外して渡してくれた。関東自動車スキークラブから県民スキーに参加されている吉田さんというその女性が,天使に見えた。

オブジェの前で

さて準備を


◆棒を引っ張ると「カランコロン」と鐘が鳴るオブジェがあった
 ゴンドラが頂上についた。頂上には,棒を引っ張ると「カランコロン」と鐘が鳴るオブジェがあった。井駒さんがさっそく近寄り鐘を鳴らす。思いのほか,きれいな音だ。いつもにこにこしている長久保さんが,「みんなで記念写真,撮りましょう」と提案する。全員が到着するのを待って,鐘をバックにデジカメで記念撮影をした。

クワッドリフト
養成講習会

◆まずマテリアルに慣れておかねば
 そこからは,各グループでの自由行動となった。準指導員養成講習会に参加する3人の受験者は,岡崎さんの班で研修を行う。わたしは,ゲレンデを熟知する井駒さんと,長久保さんのあとをついて行くことにした。ゴーグルを貸してくれた吉田さんの女性3人のグループと,去年の強化合宿で長久保さんに習ったという,自衛隊所属の「ヘリコプター操縦士」近藤さんも一緒だ。
デジカメを取り出す前に,まずマテリアルに慣れておかねば。板も靴も手袋も,それからほんとはゴーグルも新調したからだ。靴はレグザムFZ95。フォーミングして,インソールもつくった。店の人が「できたら自宅ではき慣らしておいて」と言うので,北海道に発つ5日前まで,一日30分間,スキー靴をはきながら自宅の机で仕事をしてみた。すぐに動けないので不便だった。板はサロモンのデモ9パイロット。ずっと国産の板をはいていたので,自分としては冒険だ。

◆いいよいいよ,大井さん。きれいな滑りだよ
 井駒さんの案内のもと,7人でパウダースノーをかっとばす。一本目は,よろよろして足元が定まらない。あまりのへたくそぶりに,泣きたくなってきた。風がびゅんびゅん顔に当たり,さすがに寒い。サングラスがなかったら,寒さで滑れなかったかもしれない。
「朝里エリア」をひととおり降りて,次に向かったのは「長峰エリア」だ。井駒さんによれば,「キロロの醍醐味」がここにつまっているらしい。上の方は50〜60mと幅の広い3本の中急斜面が,1000m続く。初滑りにはうってつけだ。
隊列の前の方では,長久保さんが「去年教えたことが,全部リセットされちゃったあ」と嘆きながら,近藤さんにカービングを手ほどきしている。そのバリエーションをひそかにまねっこしながら滑ってみた。内足で切り換えて,外足で加重する。これは「グリュニンゲン」なんとかというターンの練習かな,と思いつつ滑っていると,だんだん足元が安定してきた。やっと,新マテリアルに体が慣れたらしい。
調子に乗って飛ばしていると,ちらっとこちらを眺めた長久保さんが「いいよいいよ,大井さん。きれいな滑りだよ」とほめてくれた。リップサービスかもしれないが,すごくうれしかった。やはりスキーでは,ほめることが大切なのだ。

◆シヤッターチャンスが難しい
 次の一本は撮影だ。仲間とビデオ撮影することはあるが,デジカメで,滑っている人を撮るのは初めてだ。中田英寿のソニーのサイバーショットを胸ポケットから出して構えていると,早々と井駒さんが下りてきてしまった。「すみません。早すぎて撮れませんでした」と言うと,「いいえ。スタートの合図が必要かなと思って,下りてきました」とおっしゃる。なんとありがたい。
それからみんなが,続々と気持ちよさそうに滑ってきた。シヤッターチャンスが難しい。ワンテンポずつ早くシャッターを押さないと間に合わないようだ。

休憩風景
休憩風景

◆「お茶」
 冷えて疲れてきたので「お茶にしましょう」と長久保さんが提案し,一同はログハウス調のおしゃれなレストラン「クレスト」で,井駒さんにコーヒーをごちそうになった。上の人に守られたこうした感じ,なんだかなつかしいなあと思った。クラブに入ったばかりのペーペー時代を思い出す。
井駒さんは山スキーが原点にあるそうだ。昔,思い荷物をしょって雪山をツアーしたという。ゲレンデを熟知し,大きなまなざしでみんなを先導する,「あったかいスキー野郎」という感じだ。クラブから離れ,横断的なスキー界のイベントに参加すると,「さまざまなスキー野郎」に触れて,感動することがある。こうしたツアーで体験できる大きな喜びのひとつだ。

◆「おかしなスキー野郎」
一緒に滑った自衛隊の近藤さんも,「おかしなスキー野郎」のひとりだ。クワッドリフトの上でのおしゃべりは楽しかった。彼がスキーを始めたきっかけは「女の子をナンパできると思った」から。「できたの?」とすかさず聞くと,「やっぱスキーがうまくないと,ぜんぜんだめなんですよねー」と残念そう。
近藤さんの話は続く。「そのうちスキーにのめりこんじゃって,仕事の夜勤明けに車を飛ばしてスキー場に通ったもんです。そのときは,北海道に2年間転勤していて,年間100日滑っていました。夜勤明けでしょう。ねむいから,車の窓を全開にして飛ばすんですよ。窓から吹雪がどんどん入ってくる。目がいたくて,ゴーグルして運転していました」。珍しい……。
「ゴーグルで,視界が暗くなんなかったの?」と聞くと,「もちろん明るい色のレンズに付け替えますよーっ。あったり前じゃないっすかあ」と逆に笑われてしまった。なんでもゴーグルが古くなると,「運転用」に5,6個とっておいていたらしい。夜明けの雪道を,窓を全開にして,ゴーグルをしながら飛ばす男がいたら,それは近藤さんだと思ってまず間違いないだろう。

休憩風景
休憩風景
◆「お昼ごはん」
 昼食は「マウンテンセンター」まで降りてきて,レストランに入った。朝,みんなには「広報委員のベストを着た(黒いベストに黄色い文字でSAK PRESSと書いてある)わたしを見かけたら,ぜひ声をかけてください。写真を撮りますので」と話してあった。まずはレストランを一周する。「ここ,ここ」と合図してくれたグループを何枚かパチパチ。「あのう,神奈川県スキー連盟の方ですか」と聞いて,「いいえ」と答えた人も何人かいたが,かなりの人とここで再会できた。
 食事が終わり,さっそくメモを取り出して,県民スクール参加の女性に感想を聞いた。彼女たちは長久保さんたちと滑り,アドバイスを受けていた。
「今回が初滑りなので,パウダースノーでよかった。外向が強すぎると長久保さんに言われました。板の向きと逆じゃなくて,板の行く方に上体を持っていくといいよと教わりました。初日に欠点を教えてもらってよかった。残りの2,3日は注意して滑れますから」と話した渡辺さんは,最終日の検定で見事1級に合格した。
 佐々木さんはバイクに乗るのが趣味だ。「低速でバイクで曲がる時の乗り方を『スキーと同じ』と教わったことがあります。今日,長久保さんに『内倒してる』と指摘され『それができてないんだな』とわかりました。ターンする時に,『体を倒すのが早い。しっかり外足に乗って回れ』と言われてよくわかりました」と話していた彼女も,1級合格だ。
 ゴーグル運転の近藤さんは,「毎回,北海道は一人で参加しますが,いつも新しい人と知り合います」と話していた。その晩も,新しく知り合った彼女たちや長久保さんと夕飯を食べ,「旧北海道庁」など,札幌の街の見所をガイドしてくれたらしい。わたしも行きたかった。
休憩風景
休憩風景

◆「準指導員養成講習会」
 お昼ごはんのあとは,岡崎さんの率いる「準指養成講習班」の奮闘ぶりを撮影した。と言うと簡単だが,これがなかなかたいへんだった。岡崎さんが積極的に分け入っていったのは,幅60m,全長1000mの「モーグルバーン」。新雪で,かなり滑りやすくなっているが,下のほうはぼこぼこしてる。「足首をゆるめないことと,ターン方向に体を落とすことが,悪雪を滑るポイント」と岡崎さん。その通りやってみて,なるほどと感心する。

◆彼女は負けじとついていく。えらいっ。
 班員は男子2人,女子1人。その一群を,デジカメを構えたわたしと,ツアーの指導員研修会に参加されている男性一人が必死に追っかける。彼とわたしは,悪雪に足を取られて,1回ずつ板を片足だけ外し,お互いに相手の板を拾ってあげた。そうこうするうちにも4人はどんどん滑っていく。筋力の弱い女子には不利なバーンだが,彼女は負けじとついていく。えらいっ。
 なんとかぼこぼこ雪を先回りして,下でカメラを構えて撮影。
 さらに,クワッドリフトに乗り込んで,今度は整地されたバーンへ。ストックを前に持ったり,背中のうしろに抱えて滑るバリエーションで滑る。準指受験者のみんなの足前は,悪雪から解き放たれて軽やかになっている。「わたしも」と思ってまねてみたが,なかなかスムーズにターンに入れない。いかに上体でねじ伏せて,ターンのきっかけをつくっているかがばればれだ。

養成講習風景
養成講習風景

◆「寒くて気持ち悪い」
 準指受験組と別れ,残りの1時間はゲレンデを巡回して,ほかのキロロツアー参加者を探すこととした。長峰ゲレンデのクワッドリフト乗り場で,ゲレンデをじっと眺めて待ってみる。ブレスサーモ製の軍手の手袋に,デジカメを持ち,いつでもスタンバイOKの状態だ。ここは3つのコースがぶつかる場所だから,必ず誰か来るはずだ。
そう踏んだのだが,5分,10分,20分とたっても,だれもこない。あたりはしんしんと冷えている。いかんと思い,今度はゴンドラ乗り場まで下りてみた。しばらくカメラを構えて待ったが,やはり誰もこない。
 しまったと思い,ふたたびクワッドリフトで長峰ゲレンデへ行ったが,誰もいない。目の前にはあったかそうなログハウス調のレストラン。もしや,あそこにいるのだろうかと思ったものの,ふたたび下へ向かう。
あまりの寒さに,体の中の臓器の働きがにぶくなったのか,だんだん気持ち悪くなってきた。これはまずい。人探しをあきらめて,とりあえず,インフォメーションセンターのある「マウンテンセンター」へ向かう。そこには「3時30分のバス集合に,そろそろ人が集まってくるので」と,スタンバイする井駒さんがいらっしやった。

◆「トイレでインタビュー」
 わたしはそのままトイレに向かい,あたたかなトイレのいすに20分ほど座って,なんとか復活した。体には自信があったが,北海道のスキー場をあなどってはいけないと反省した。
 トイレでたまたま,準指養成講習班で岡崎さんに習っていた女子と鉢合わせした。さっそく,「女子一人でたいへんでしたね。今日の講習はどうでしたか?」とインタビューを試みた。
 彼女は,川崎スキー協会の久保さん。準指受験は初めてで,養成講習会も今日が初めてだという。「同じ班員の男性2人は悪雪が好きみたいで。わたしも負けちゃいけないと思って,遅れないようにとりあえず滑りました」とニコニコ答えてくれた。
 「ジャンプターンや,ストックを前や後ろに持ち変えるバリエーションをやってる時,『体を使ってターンに入るのでなく,足元からきっかけをつくってターンに入るように』と言われ,すごくためになりました。みんなも最後には,ニュートラルな時間がつくれるようになっていました。ポジションが後ろと指摘され,検定前にジャンプなどしてポジションを確認するといいよと言われました。今日は,気持ちはがんばろうと思っていました。キロロにきて,講習を受けて,すごくよかったです。斜面設定もすごくよかった。急斜面,緩斜面があって,悪雪と整地のバーンがあって,バリエーションを生かされながら,交互に練習できました。整地でうまく滑れても,悪雪で滑れないのは,悪いくせのある証拠。悪いくせが出ないように悪雪で調整して,整地にその滑りを持っていけるようにと,岡崎先生が講習してくれました」(久保さん)。準指受験,がんばってください。

たっぷり滑りました‥
風景

◆「帰り」
 こうして3時50分,バスはキロロを出発して帰路についた。あたりは晴れ,空が夕日でかすかに赤くなっている。「これまでなんどかキロロに来たけど,晴れたキロロは珍しい」と,だれかがつぶやいた。あとから思えば,この日が一番,参加者のみなさんや,役員の先生方と密に接することのできた一日であった。33人という,こじんまりとしたオプションツアーもいいものである。帰りのバスでは,あとから乗り込んできた関東自動車の渡辺さんを横の座席に手招きして,今日の感想を聞いた。そのあとも,よもやまばなしは続いた。
帰京後,メールが届いた。今度,どこかで一緒に滑れたらいいなと思っている。約380人という大所帯のツアーだったが,小規模な集まりをねらって,積極的に語りかければ,同じスキーヤー同士,結構話ができるものだ。こうした出会いはうれしい。

「キロロ」編はおしまい。

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