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五竜T行事
指導員研修会(D)・公認検定員クリニック(D)
・基礎スキー技術強化合宿(B)
基礎スキー指導員養成講習会(B)
技術レベルアップ講習会(A)
スキーパトロール養成講習会(A)
HC(ハンディキャップ)スキー教室(1/18〜19)
大井智子 広報委員レポート

アキヤボートを抱えて

パトはチーム活動が基本

◆「スキーパトロール養成講習会」
 去年の夏,「SAK拡大教育本部会」に出席した時,安全対策委員長の和田均専門委員と,
「五竜のスキーパトロール養成講習会でアキヤボードに乗せてもらう」約束をした。アキヤボードとは,スキー場でけが人などを運ぶアルミのボードのことだ。重さは20kgもする。なぜ「アキヤ」というのかは,だれに聞いてもわからない。きっとメーカー名だろうと思うが,知っている人がいたら教えてほしい。
1月18日。午後2時。アキヤボードの姿を求めて,頂上に近くのアルプス平ゲレンデに向かった。天気はいいが,風が強い。風が吹き降ろすと,たった一本ゲレンデに立っている白樺の木が,舞い上がる雪けむりにかき消されそうになる。しばらくそこでボーっとしていると,大きなアキヤボードを抱えてアルプス第2ペアリフトに乗り込んできた一行が,見えてきた。
和田さんは今回は欠席。正指受験が同期だった戸嶋洋治専門委員と,北海道研修でお世話になった佐藤公一専門委員と,古谷省吾専門委員の姿もリフトの上に現れた。
驚いたのは,たった2人の受験生に対して,講師が3人と,すでにパトロールの資格をもっている人が10人もサポートとして自費で参加していることだ。パトロールとはチームで活動するのが基本で,「自分たちもサポートしてもらったから,自主的に手伝いにくる」のだそうだ。「サポートすることで自分の練習もできる。こういう機会じゃないとなかなかボードに触れない。パトロールはひとりではできない競技なので,最低でも2人は必要だ」という側面もある。サポートにやってきたある女性は,「パトロールではサポートするのがあたりまえ。スキーは個人種目だとずっと思ってたけど,実は違うんだなとパトロールを受験してわかった」と話す。

バールが取り付けられる

さっそくアキヤボートに挑戦

◆「うでがプルプルしました」とほっと息をつきながら話す
  ずっしりとしたアキヤボードに,鉄の棒のバールが前後に取り付けられた。斜面には,大回転と回転のポールが設置してある。この旗をくぐりながら,アキヤボードをひとりで引くというのが,パトロールの検定種目だ。「真下切り換え」「大回り」「小回り」という種目を,それぞれ左右2回ずつ行う。ちなみにほかには,「シュテム」「パラレル」「プルーク」「総合滑降」「三角巾」「ロープ」「学科」の試験があるそうだ。
 さっそく受験生の男女二人がアキヤボードに挑戦する。ターンのたびに,重くて大きなボードが左右に振られる。けが人役の女の人は,うつぶせの姿でボードにしがみついている。酔わないのだろうかと思うぐらい,バンバン揺さぶられてる。スキーをはきながらふんばって,必死にボードを操ろうとする受験生もたいへんそうだ。
 37歳の彼は,無事にポールをくぐり抜け,「うでがプルプルしました」とほっと息をつきながら話す。「スキー中心の生活をしたくて,スキーのために会社にも行ってます。準指導員の資格は7年前に取りました。スキーの幅を広げるのが目的です。パトロールは最もほしい資格でした。」とかなり明快だ。製剤を研究する仕事に携わりつつ,「スキーをやるので食事にも気をつける」し,「スキーが下手になりたくないので,エスカレーターもエレベーターも使わない」のだそうだ。
 パトロールを取るまでのプロセスが自分にとっては大切なのだと言い切る。「救急法のロープの結び方は,ふだんの生活や仕事にもむちやくちゃ使います」という。10人もサポートがいることについては,「びっくりしました。でもパトロールはひとりでは受験できないとわかった。ひとりではアキヤボードを準備できないし,ボートに乗る患者役も必要。アキヤボードのコース規制もしなければなりません。チームワークなんだなと思います」と話す。

練習風景

練習風景

◆きゃあああああ,という悲惨な叫びを何度上げたことか
 さて。リフトを降りてポールのスタート地点に着く。今度はわたしの番みたいだ。「どうだ。乗ってみるか。引いてみるか」と戸嶋さんが選択を迫る。一瞬悩んで,「では引かせてください」と返事をした。ついにアキヤボードを引くのだ。チビのわたしには,なんだかバールの位置が高い。ちゃんとけが人役の女性も乗ってくれた。うしろのバールは女性が引っ張ってくれる。「2人引き」というやつだ。
 まずは思いっきり足をボーゲンに開いて,バールを両手でしっかりと持った。そろりそろりと大回転のポールに入る。アキヤボードの重みがぐっとかかってくる。ほとんどスピードは出てないはずなのに,押さえているだけで精一杯だ。回転半径のバランスまで考慮する余裕がない。ポールをくぐるたびに,けが人役の人の入ったボードがラインからはみだしそうになる。大回転の最後のポールで,かろうじて止まれた。
 「いやあーここで十分です。たいへんだってよくわかりましたから。ありがとうございました」と明るく言うわたしに,「回転も続けてやれ」とのお達し。え……。それはあまりに危険すぎないかと,しばし抵抗を試みたがあきらめた。続けて回転のポールに入る。これがほんとに難しい。早め早めに切り換えないと,とてもじゃないけど全長2mはありそうなボードを,ポールのラインに収められない。きゃあああああ,という悲惨な叫びを何度上げたことか。必死の思いで,無事,最後のポールをくぐりぬけた。けが人役の人をゲレンデに放り出すことだけは避けられたが,かなり不規則に揺さぶられ続け,きっと気持ち悪かったはずだ。つい,「ごめんなさい。酔いませんでした?」と聞いていた。足も腕もパンパン。それなのに,そこにいたパトロールの女性たちはみなきゃしゃに見えた。

元気の良い女性陣

おだやかな男性陣

◆衝突事故に遭い脳しんとうを起こした時に,何もしてあげられなかった
 98年にパトロールの資格を取得したという女性は,「大学のスキークラブで心臓に持病を持っている子がいた。その子がゲレンデで衝突事故に遭い脳しんとうを起こした時に,何もしてあげられなかった。板をばってんに立てることしかできなくて,くやしかった」というのが,パトロールを取ろうと思った最初の動機なのだという。
しかし社会人になって「どうやって取ったらいいか,だれに相談したらいいかもわからなった。クラブのだれに聞いても知らなかった」。資格を取ってからは,「(各スキー場には専門のパトロールがいるので)実際に現場に当たることはないけれど,倒れている人がいれば気になって,声をかける。川崎の行事で蔵王に行った時は,リフトの下で足をくじいて動けなくなっている人をおんぶしておりてきた」と笑う彼女は,そんなパワーがどこにあるのかというぐらい,きゃしゃなのだ。
 それにしても,パトロールのみんな楽しそうだ。常に笑い声が聞こえてくる。なにしろ,女性陣の元気がいい。男性陣はみなおだやかで,元気な女性たちをニコニコしながら見守っている,という感じだ。

高速デモンストレーション

SAKのマークがあります

◆その女性たちにドギモを抜かれることになった
 しかし次の一本で,その女性たちにドギモを抜かれることになった。アキヤボードの前と後ろにパトロールの有資格者の女性が付き,男子の受験生がけが人役となり,アキヤボードで降りてくるデモンストレーションをしてくれるという。わたしは先に降りて,デジカメを構えた。すると,みたこともないようなすごい勢いでアキヤボードがゲレンデを駆け下りてくる。「はいっ」「はいっ」と気迫に満ちたかけ声が聞こえてくる。どしんっどしんっとボードがコブ斜面にぶつかるたび,「うーっ」という受験生の悲痛な叫び声も聞こえてくる。周りのスキーヤーはあっけにとられている。まるで,ボードが自分の意志で,ゲレンデを全力疾走しているようだ。ターンするたびに雪けむりが舞う。ただ,ただカッコイイ……。下に到着したボードから,よろよろと下りてきた男性に「うなってたのは,はきそうになったの?」と聞くと,「いえいえ。コブに当たると痛いんです。もう命がけでした」と答えてくれた。
彼女たちは,毎年3月に安達太良スキー場で行われる,「パトロールの技術選」(!!)に出場しているのだそうだ。アキヤボードのほか,三角巾やロープの種目で競うそうだ。ぜんぜん知らなかった。「技術選チームを組むために,女性6人集めるのがたいへんで。育てても,結婚や出産ですぐに出れなくなったりする」と嘆く。神奈川は男性2チーム,女性1チームが出場する。女性は全国の都道府県から3チームほどしか出ないそうだが,3回優勝しているという。すごい。さっきの滑りを見て,納得した。

まわりから注目…

頑張れ

◆「パトロールは助け合いの世界。
 その女性が,パトロールを取った理由は「かっこいいのが理由かな。まあクラブの会長にだまされて(笑),泣きの涙で取った。つらい。ボードを引くのもたいへんで,手足がぼろぼろになった。パトロールを受験しようと思ったら,前もって体をきたえておいた方がいい。養成講習会では,昼は練習して,夜は宿で三角巾やロープの講習が2時間続く。体がなかなか付いていかない」。厳しい世界だ。それでも「パトロールは助け合いの世界。パトロールの試験では必ず『ガンバ』と声をかけ合う。そのあと準指を受験したので,『冷たいな。個人競技の世界だな』と思ってしまった」と言う。うーん。確かにそうした側面はあるかもしれない。
最後にもうひとりの受験生の女性に感想を聞いた,「受験は勉強になる。普通の講習とは得るものが違う。細かいことを言われたわけではないけれど,スキーに乗る位置がすごくよくなった。ボードを引いたのは今日が初めて。難しいけど,絶対にできないことはない。自分で『えいっ』という気持ちがあると,またひとつ。さらに周りの励ましがあって,『もうひとつ,がんばってみよう』という気持ちになれる」と話してくれた。
夕方になったので,佐藤さんと古谷さんがアキヤボードを引いて,とおみゲレンデまで降りることになった。わたしもボードを引いてるつもりになりながら,ハの字に足を開いて,ボードの近くをウロウロした。それで初めてわかったのだが,ボードが通っていくというだけで,周りの人が全員こっちを注目するのだ。きっと「けが人が出た」と思っているに違いない。わたしもいつもそう思っていた。


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